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巻頭言

「カリブー(Caribou:野生のトナカイ)との出会いは”間に合った”という不思議な思いを僕に抱かせた。あと五十年、あと百年早く生まれていれば…。過ぎ去った時代に思いを馳せる時、僕はいつもそんな気持ちに
とらわれてきた。あらゆるものが目まぐるしいスピードで消え、伝説となっていく。が、ふと考えてみると、アラスカ北極圏の原野を、数千年前と変わることなくカリブーの大群が今も旅を続けている。」
                                                             『長い旅の途上』(星野道夫)より

 東京写真美術館(恵比寿ガーデンプレイス)で、星野道夫の写真展「悠久の時を旅する」が今開催されています。20年も前に亡くなられた星野道夫さんですが、中2の英語の教科書 New Horizon に取り上げられていることもあり、若い人が随分来ていました。私も仕事で、教室のスクリーンいっぱいに、彼が撮った、北極熊が広い氷原を歩いている写真や綺麗な星空を背景にカリブーが海を渡っている写真が映し出されるのを見て、感動しました。彼が撮る動物写真は、動物がアラスカの広大な自然と一体を成すところも特徴となっています。彼は写真の勉強だけでなく、現地の動物を勉強する必要がありましたが、外国人がアラスカ大学へ入学するための英語が30点ほど足りませんでした。一年棒に振るわけにもいかない彼は、野生動物学部の学部長に会って、自分が極北の自然と取り組みたいことを必死に英語で伝えました。これは、思いを伝えるには英語が必要ですということ以上に、自分の夢を持つことの大切さ、自分にかける情熱、夢を実現させる準備の必要性を、教科書は青少年に語りたかったのか、と改めて感じました。また、カリブーの子どもが生き延びられるかどうかが生後の一週間に集中していることや、ご自分の奥さんが流産するかもしれないご自身の不安、自然へのうろたえから、自然や生命の持つ脆さを彼は感じていました。自然とつながる生活の歴史から生まれたアラスカやエスキモー(Inuit)の神話が似ていることも研究し始めていた星野道夫さんでしたが、熊に襲われるという事故で、42歳で亡くなられました。私たちは、生きているということが、実は、ある限界の中で人間は生かされているのだということを、ともすれば忘れがちのような気がします。

 気候変動のために、彼がお世話になったシシュマレフ(shishmaref)村が今、消滅しようとしています。彼が亡くなり、3年経ってから村の水没が始まりましたから、彼は、ぎりぎり”間に合った”のだと言えるでしょう。ロシアの村の人家に北極熊が入って来たニュースもありました。環境破壊をしているところから遠く離れた地域の環境破壊が進んでいます。
 クリスマスは、すっかりトナカイのネタがとけこんでいますが、トナカイをめぐっては、こんなエピソードがあったのです。クリスマスの喜びを運ぶトナカイ-いつの間にか、このようなイメージが広がりました。私たちも、元気なトナカイのように、クリスマスの本当の喜びを人に届けたいものです。